2015年5月19日火曜日

トランス脂肪酸の健康リスクについて


(2015/05/19)

● 人体に深刻な危険、トランス脂肪酸の健康リスク!


 「トランス脂肪酸」は、マーガリンやショートニングをはじめ、スーパーマーケットや食料品店で販売されているサラダ油などにも含まれている物質で、菓子パンやスナック菓子、一部のインスタントラーメンなど、コンビニやスーパーなどで一般に販売されている多くの加工食品、ファストフード、揚げ物などに含まれている。

 「トランス脂肪酸」を過剰摂取すると動脈硬化を促進させ、心臓疾患や脳血管障害のリスクを高めると言われ、またアトピー性皮膚炎やアレルギー性鼻炎、気管支ぜんそくなどのアレルギー疾患のリスク要因になると指摘されています。
 さらに血中の中性脂肪を増やし、肥満や高血圧、そして糖尿病の原因にもなると考えられています。

 アメリカでは「プラスチック食品」「狂った脂肪」などとも呼ばれ、食料品への含有量表示が義務付けられており、米国・食品医薬品局(FDA)は、健康リスクに対する摂取規制も行っている。

 WHO(世界保健機関)は、健康リスクを回避するために、トランス脂肪酸を一日の総エネルギー摂取量の1%以下にするように推奨している。
一日の総エネルギー摂取量を1800キロカロリー程度と仮定すると、その1%は18キロカロリー、脂肪は1グラム約9キロカロリーといわれていますから、摂取上限は2グラムとなります。

 農林水産省の「トランス脂肪酸に関する調査研究」によると、トランス脂肪酸は、「優先的にリスク管理を行うべき有害化学物質のリスト」において、リスク管理を継続する必要があるかどうか決定するため、危害要因の毒性や含有の可能性等の関連情報を収集する必要がある危害要因とされている。

 この調査報告によると、日本人の各食品群別の「トランス脂肪酸摂取」は、油脂類がもっとも大きく総摂取量の20%、次いで菓子類が18%であり、このほか穀類、肉類、乳類、調味料・香辛料類を合わせた6食品群が主要な摂取源となっているとしている。

 この結果から、平均的な日本人の日常の食事における各食品群からのトランス脂肪酸摂取量の合計は、1日1人当たり平均で0.92~0.96gと推定、この値は、日本人のトランス脂肪酸摂取量についてこれまで報告された、「食品安全委員会」の調査の0.7~1.3 g/日(2007年)や、「国立医薬品食品衛生研究所」の調査の0.71 g/日(2008年)と大きな差はなく、WHO(世界保健機関)の専門家会合が推奨しているトランス脂肪酸の摂取目標である「総エネルギー摂取量の1%未満」(約2g程度)を達成しており、推奨される上限値の半分程度であるとしている。

 さらに、諸外国のトランス脂肪酸の平均摂取量が、成人1人当たり米国では5.8 g/日、欧州では男性1人当たり1.2~6.7 g/日、女性1人当たり1.7~4.1 g/日と報告されており、これらと比べて日本人のトランス脂肪酸の摂取量はかなり少ない傾向にあることから、平均的にみれば日本人のトランス脂肪酸による健康リスクは低いと推定されると結論付けられている。

 では、現在の平均的日本人の食生活事情が、これらの調査研究にどの程度反映されているのだろうか? 食の欧米化が進み、和食中心の食生活から肉食乳脂肪の多いい洋食へ、さらにコンビニ弁当、ファースト・フード、スナック菓子、インスタント食品等を中心とする偏食型の食生活が当たり前となってしまった昨今、内閣府の「食品安全委員会」でも、「偏った食事をしている場合は、平均値を大きく上回る摂取量となる可能性を指摘し、現時点では、その程度について予断できない。」としている。
 食生活の変化により、特に若年層(20歳前後)において偏った食事が、脂肪の摂りすぎなど栄養バランスに偏りが生じやすくなり、将来の生活習慣病による健康リスクが高くなる可能性が懸念される。

 脂肪を多く含む食品の摂りすぎに気をつけ、バランスのよい食生活を送ることが重要とも指摘されているが、これら偏食型の食生活に慣れて育った世代が数年後には日本社会の一角を担う世代となることを考えると、「現時点では直ちにリスク管理措置を検討する段階にはない」などと呑気なことを言っている場合だろうか。

 近年、国際的に慢性疾患の予防と食事・栄養との関連が明らかにされてきたことに伴い、深刻な慢性疾患問題を抱える米国では、1994年より栄養成分表示が義務化され、その後、ブラジル(2001年)、オーストラリア・ニュージーランド(2002年)、カナダ(2005年)などの各国が続いた。
 アジアでも、台湾(2002年)、韓国(2006年)、中国(2008年)、インド(2009年)などの国や地域で栄養成分表示が義務化されている。

 さらに、トランス脂肪酸の表示義務化についても、カナダ(2005年)、米国(2006年)、ブラジル国(2006年)、アルゼンチン、チリ、さらにアジアの国や地域でも、韓国(2007年)、台湾(2008年)が栄養成分表示にトランス脂肪酸を追加したほか、2010年7月からは香港でも、トランス脂肪酸を含む栄養成分表示が義務化されている。 また、欧州(EU)でも表示の義務化にむけ検討中となっている。

 では、日本での対応はどうかというと、厚生労働省が管轄すべき問題だと思いますが、なぜか消費者庁が監督官庁になっていて、その上で、「日本人のトランス脂肪酸の一日の平均摂取量は0.9グラム前後であり、健康への影響は少ない」という10年以上も前の調査報告をもとに、食品メーカー側の反対もあるのか、一切の規制をせず野放し状態にしているのが現状である。

 今後、このような食習慣が、ますます増加することは容易に想像できる。 であるならば、まずは、トランス脂肪酸の健康リスクに対する注意喚起の意味も含めて、表示義務化は早急に行わなければならない最低限の処置ではないだろうか。 こうした偏った食事が、将来の健康リスクになることをTVなどのマスコミもあまり取り上げないのは、スポンサーの食品メーカーに配慮しての事だろうかなどと勘ぐってしまう。

 さらに、脂質のうち、とりすぎが問題となるのはトランス脂肪酸だけではなく、飽和脂肪酸、n-6系脂肪酸、n-3系脂肪酸などの脂肪からのエネルギー摂取量の割合が、食事摂取基準に定められた目標量の範囲を上回っている人は、成人男性の約2割、成人女性の約3割と、脂肪の過剰摂取も問題視されている。

 農林水産省は、トランス脂肪酸の摂取量調査に加えて、トランス脂肪酸と同様に過剰摂取によって生活習慣病のリスクを高めるとされる飽和脂肪酸についても調査していて、この結果、日本人(20歳以上)の平均的な飽和脂肪酸の摂取量は、1日1人当たり16.6gと推定、これは日本人(20歳以上)の平均総エネルギー摂取量1911 kcalの8.2%に相当し、「日本人の食事摂取基準(2010 年)」に定められた目標量の範囲の上限値(総エネルギー摂取量の7.0%)を超えていると指摘、日本人は平均的にみて飽和脂肪酸を過剰に摂取している可能性があり、このことにより生活習慣病等の健康リスクが高くなる可能性があると指摘している。