2015年4月27日月曜日

トシとともに増える物忘れ、その防止法


(2015/04/27)

● トシとともに増える物忘れ、その防止法は!


 どこかに置いた鍵が見つからない。ドア近くの小物入れにあるはずなのに、そこにはない。 キッチンカウンター、ナイトスタンド、本棚、仕事用のバッグ。 そして、ようやく昨夜届いた郵便物の下で見つかった――という経験はないだろうか。

 モノを紛失するのは苛立たしいことだが、人間は忘れっぽいものだ。 平均的な人は1日最大9回もモノを置き忘れるらしい。
 英国の保険会社が、2012年に3000人を対象にオンラインで実施した調査によると、3分の1の人が携帯電話や鍵、書類など、なくした物を探すのに平均で1日15分を費やしているとのデータもある。 

 日々の物忘れはアルツハイマーや認知症といった深刻な病気を示す兆候ではない。加齢とともに悪化するものの、軽度の記憶力の衰えは誰にでもあることだと研究者は言う。

 専門家は、物忘れの少なくとも一部は遺伝子のせいだと指摘する。ストレスや疲労、複数の作業を同時にこなせば、こうしたミスを犯す傾向が強くなる可能性がある。
 記憶力の衰えは、うつやADHD(注意欠陥・多動性障害)といったより深刻な状態と関連している場合もある。

 ハーバード大学で心理学を教えるダニエル・L・シャクター教授は「関心と記憶の連結が中断されるためだ」と話す。シャクター氏は「なぜ、『あれ』が思い出せなくなるのか―記憶と脳の7つの謎」の著者でもある。

 この中断は2つの場面で発生し得る。自分が何をしているのか――鍵やメガネをどこに置いたのか――という情報のエンコード(符号化=脳に記憶させること)に失敗したときと、記憶を引きだそうとするときだ。
 プリンストン大学で心理学を教えるケネス・ノーマン教授は、記憶をつかさどる脳の海馬と呼ばれる部分がスナップ写真を撮影し、ニューロン(神経細胞)の束に保存することで、情報がエンコードされると指摘する。 こうしたニューロンは時間が経った後、何かの合図やヒントで作動させることができる。

 何かモノを置くときなど、エンコードを行っている最中に関心を払うことが重要だ。 記憶を引き出そうとする際の精神状態が、エンコードを行っている時の状態と違っていれば、問題が生じかねない。
 代表例を挙げると、帰宅して鍵を置いたときに、ひどく空腹だったとしよう。 後になって鍵を探すときに空腹でなければ、記憶を引き出すのが難しくなる。

 紛失物を探す際は、自分の行動をたどってみるとうまくいくことがある。 帰宅した時の精神状態を思い起こしてみるといい(空腹だったか、など)。
 ノーマン氏は「記憶を取り出すときの脳の状態を、できるだけ記憶した時の状態にもっていくことができれば」うまく探し出せる可能性が高まると話す。

 また最近のドイツの研究で、物忘れや注意力散漫な人の多くが、いわゆるドーパミンD2受容体遺伝子(DRD2)にある種の変異を持っていることが分かった。
 研究は500人を対象に記憶力や知覚の衰え(「止まれ」の標識を見落とすなど)、さらには精神運動の衰え(通りを歩いていて人にぶつかるなど)について質問する形で実施された。 対象者は分子遺伝学的な診断のため、唾液サンプルも採取された。

 同じ駐車場内でも別の区画に車を停めると、その場所を覚えられないのはなぜか。 シャクター氏によると、これは過去に記憶した情報が邪魔をして、新しい情報を学習しにくくさせているためだ。 心理学者はこれを「順行干渉」と呼んでいる。

 どこに置いたか忘れることを防ぐ最良の方法は、わかりきっていることかもしれない。 理に適った置き場所を決めておくことを勧める。 たとえば読書の時に必要な老眼鏡であればベッドの横、携帯電話は同じ場所で充電する、家のカギは玄関を上がった靴箱の横のフックに掛ける、財布は机の何番目の引き出しに、というようにだ。
 さらに、指差し確認で「ヨシ」と言ってし、間違いなく置いた事を動作で再度確認しておく。

 セントルイスのワシントン大学で心理学を教えるマーク・マクダニエル教授は「私は今、財布をドレッサーの上に置いている」と意識的に考えたり、声に出したりすることも効果的だと話す。

   思い出すヒントとなるような周囲の環境と合わせて、自分のやるべきことを視覚化することも効果的だ。
 例えば、チキンとアボカド、レタスを買うことを覚えておきたければ、店内の野菜売り場と肉売り場の風景と一緒に買いたいものを想像するといい。マクダニエル氏は「店に着いた時に、こうしたヒントが思い出す助けになる」と話す。

 認知機能は特にその処理スピードに関しては20歳にピークをつける。 その後は年をとるに連れて脳が小さくなるため、複数の作業を同時に行ったり、記憶を取り出したりするのに時間がかかるようになる。

 オハイオ州のウェクスナー・メディカル・センターの神経科医ダグ・シャレ氏は、軽度の記憶の衰えが増えてきたら、ストレスやうつのほか、疲労につながる睡眠時無呼吸などの健康問題が関連している場合もあると指摘する。 薬の服用が記憶力に影響することもあるという。

 たんなる物忘れか、それとも認知症かの境目は、たとえばその日の夜、「今日のお昼に何を食べたか、お弁当のおかずは何だったかを思いだせなかったのか、そもそも食べたことを忘れてしまった事の違いで、普段の生活にも支障がでるようならすでに認知機能が衰えていると疑った方がよい。

 最近話題になっている認知症予防に、軽い有酸素運動(散歩、ウォーキング、足踏み体操など)と頭の体操(簡単な暗算、しり取り遊びなど)を同時に行う運動プログラムがある。
  たとえば、ウォーキングをやりながら100から3を引いてゆく方法、最後に1が残れば正解。
ただし、計算を間違えても大丈夫、頭で考える事が大事で、予防効果は充分ある。

 運動時間の目安は1日30分以上(10分を3回に分けて行ってもよい)、週に3日以上行うと効果的だそうだ。 引く数字は、3が終わったら 4、6、7、8、9、11、12、13 ・・・・などに変えて続けてみる。  途中で暗算に飽きたら、しり取り遊びに変えてウォーキングを目安の時間まで続けてもよいそうである。


 ・ 参考:認知症予防運動プログラム動画(NHK・WEBサイト)