2014年12月4日木曜日

老化、どの通説も誤りかも


(2014/12/04)

● 高齢化(老化)に関連する6つの通説を払拭する最近の研究結果


 歳をとるにつれて、われわれの心と体は衰退し、次第に人生に満足できず、楽しめなくなってくることを誰もが知っている。認識の衰退が不可避であることを誰もが知っている。 歳をとるにつれて、われわれは仕事で生産的でなくなることを誰もが知っている。

 しかし、誰もが誤っているように思われる。

 人生の後半が孤独で、憂鬱で、衰退の時期であるとの紋切り型の通説とは正反対に、われわれは歳をとるにつれて人生がかえって良くなることを示す科学的研究の証拠が増えている。

 米バージニア大学のティモシー・ソルトハウス教授(心理学)は「これまでの通説は、人生の満足感は次第に下降するというものだが、研究者たちが発見しつつある注目すべきことは、それがどうやら本当でないようだ、ということだ」と述べた。

 以下は高齢化(老化)に関連する6つの通説と、それにまつわる共通の誤解を払拭する最近の研究結果だ。

 通説その1:老齢期は憂鬱(ゆううつ)になりがちだ

 老齢期は人生で憂鬱な時期だと考えがちだ。健康が衰え、友人や身内が障害者になったり、亡くなったりするため、将来について前向きな見方を保持するほうが難しいかもしれない。

 しかし最近の研究からは、情緒的な幸福感が70代まで改善し、その後横ばいに推移することが示唆されている。 スタンフォード大学長寿センターのローラ・カーステンセン所長らのチームによる2014年の研究によると、100歳以上の人たちでさえ、「幸福感の水準が全体的に高い」という。

 チームはどのようにして幸福感を計測しているのだろうか。 スタンフォード大のチームは1993年から95年までの間、18歳から94歳の184人にポケットベルを配布した。 チームは1週間にわたって1日5回無作為にポケットベルを鳴らし、被験者に質問に回答してもらった。 質問は怒り、悲しみ、楽しみ、退屈、それに喜びといった19の感情について、1から7の7段階で評価するものだった。 チームは同じ調査を5年後と10年後に行った。

 チームの結論は、被験者が歳を取れば取るほど、心的状態(前向きの感情と後ろ向きの感情の比率で計測する)は徐々に改善するというものだった。

 カーステンセン教授は「若いときが人生で最善の時期だという通念に反し、情緒的な人生のピークは70代に入らないと訪れない可能性がある」と述べた。

 通説その2:認知能力の衰退は避けられない

 われわれの脳は歳を取るにつれ、構造が変化する。前頭前皮質などの一部の部位は縮小する。また、メッセージを運ぶニューロンの効率が低下する。その結果、集中力や記憶力は低下し、30歳前後から抽象論理や斬新な問題解決のテストの点数が落ち始める。

 テキサス大学ダラス校のデニス・パーク教授(行動脳科学)によると、古くなったコンピューターと同様に、古くなった脳が物事を処理したり、数々の記憶から情報を取り出したりするのにかかる時間は通常長くなるという。

 しかし、最近の研究は、認知症である場合を除いて、高齢者の実際のパフォーマンスが認知能力テストの結果を上回ることを示唆している。トロント大学のリン・ハッシャー教授(心理学)は、「研究所の通常の検査は、高齢者の真の実力を体系的に過小評価している可能性がある」と述べる。

 通説その3:高齢の労働者の生産性は低い

 米国の労働人口のうち55歳以上の占める比率は22%と、1992年の12%から上昇している。 しかし、高齢労働者は若年労働者より順応性が低いとするステレオタイプのせいもあってか、高齢労働者の生産性は低いと思われている。

 しかし、アクロン大学生涯発達・老年学研究所のハーベイ・スターンズ所長によると、学術論文の圧倒的多数は「年齢と仕事の実績との関連が事実上ない」ことを示している。

 ある研究によると、経験が必要な仕事では、高齢労働者のパフォーマンスの方が優れていることがうかがえる。 独ミュンヘンにあるマックス・プランク研究所のエコノミストらは2003年から06年にかけ、高級乗用車メルセデス・ベンツの組み立てラインで働く3800人がしたミスの数とその深刻さを調べた。 エコノミストらによれば、その4年間で高齢労働者の深刻なミスの数がわずかに減少したのに対し、若年労働者のそれは逆に増えたという。

 同研究所のマティアス・ワイス氏は、「高齢労働者は深刻なミスの避け方を良く知っているようだ」と指摘した。

 通説その4:孤独になる公算が大きい

 人々が歳をとるにつれて、彼らの社会的サークルは縮小する。 しかしそれは高齢の大人ほど孤独になることを意味しない。

 実際、幾つかの研究によれば、友情が歳とともに改善する傾向がある。

 テキサス大学のカレン・フィンガーマン教授(人間発達・家族学)は「高齢の成人は通常、若年層の成人に比べて、より良い結婚生活、より良い友情を享受していると報告し、子供たちや兄弟とのあつれきがより少ないと報告している」と述べている。 同教授は2004年の共同研究で、「高齢の成人は若年層よりも緊密な関係を結ぶ比率が高い」し、「悲しみをもたらす問題含みの関係の比率が少なくなっている」ことを発見した。

 通説その5:創造性は年齢とともに低下する

 長い間、創造性は若者たちの領域とみなされてきた(例えば、ビートルズのジョン・レノンとポール・マッカートニーや、アップル創業者のスティーブ・ジョブズとスティーブ・ウォズニアックを考えればいい)。

 しかし19世紀までさかのぼれる各種の学術研究によれば、芸術家や学者が最も多才を発揮する時期は中年期だという。 カリフォルニア大学デービス校のディーン・キース・シモントン教授(心理学)によると、創造性は、純粋数学や理論物理学のような分野では比較的若い時期にピークになる傾向がある。そこでは突破口となるひらめきは通常、問題解決能力に依存しており、その力が最も鋭いのが20代だからだ。 これに対し蓄積された知識が要求される分野では、創造性のピークは通常、もっと後期にやって来る。 例えば歴史家や哲学者は「60代になってピークに達するかもしれない」(同教授)という。

 通説その6:よく運動したほうがベターだ

 健康と寿命を改善するとなると、運動がカギになる。 しかし運動を増やすことが必ずしも常にベターではないかもしれないことを示す研究が増えている。

 ミズーリ大学カンザスシティ校のジェームズ・オキーフ教授(医学)は「リターン(効果)が減少に転じるポイントがある」と言う。

 同教授とその同僚は今月発行の研究論文で、2001年から13年までジョガー1098人と非ジョガー3950人を追跡した結果を発表した。 これは、1976年以降進んでいる「コペンハーゲン市心臓研究」の一環だった。 全体的に、コペンハーゲン研究の対象とされたランナーは非ランナーよりも長生きした。 男性では6.2年、女性では5.6年長生きした。

 しかし、同教授らの新研究では、時速7マイル(約11キロメートル)という速いペースで週4時間以上走る人々は、長寿という恩恵の全てとは言わないまでも大半を失っているとの結果が得られた。

 最大の改善を享受した集団はどれだったか。 時速5~7マイルという比較的遅いペースで週1.0-2.4時間走るジョガーで、週に少なくとも2日間、各種の運動を控えていた人々だったという。