2013年2月28日木曜日

長寿国日本、短命化の危機



「沖縄の長寿伝説崩壊の危機は、日本人短命化の兆しか。」

 2月28日、厚生労働省が2010年度調査分の「都道府県別の平均寿命」を発表した。
本調査は昭和40年(1965)から5年ごとにまとめられており、今回で10回目となる。
今回、長寿の全国1位は、男女ともに長野県で男性が80.88歳、女性は87.18歳であった。
 また全国平均では、男性が0.80歳延びて79.59歳に、女性は0.60歳延びて86.35歳と、男女ともに5年前の前回調査より寿命が延びたことになる。

 長野の男性の1位は平成2年(1990)から5回連続で、女性は前回の5位から今回はじめて1位となった。男性は長野に次いで、滋賀、福井、熊本、神奈川、・・・・・ の順。女性は長野に次いで、島根、沖縄、熊本、新潟、・・・・・ の順となり、ワースト1は、男女とも青森県であった。

 ここで注目するのが「長寿国日本」の中でも30年以上もの間、長寿日本一を自負していた沖縄県が、今回初めて女性の1位が3位に、男性においては前回の25位からさらに30位へと転落。
30年以上もの間、「長寿の島」と言われた続けた沖縄の神話は、過去のものになってしまったのか。

 そこで、過去10回の「県別平均寿命」のランキングの推移を、長野、沖縄、青森の3県に注目してみると下記の表のようになる。 これら3県の特徴は、まず長野が調査毎にランキングを上げている。 沖縄の女性が圧倒的1位から今回始めて3位へ、男性は調査毎にランキングを下げ、青森は男女共にワーストをキープしていること。

  長 野 沖 縄 青 森
調査年
昭和40 (1965) 9 26 / / 46 44
昭和45 (1970) 7 19 / / 45 32
昭和50 (1975) 4 16 10 1 47 35
昭和55 (1980) 3 9 1 1 47 44
昭和60 (1985) 2 9 1 1 47 46
平成 2 (1990) 1 4 5 1 47 45
平成 7 (1995) 1 4 4 1 47 46
平成12 (2000) 1 3 26 1 47 47
平成17 (2005) 1 5 25 1 47 47
平成22 (2010) 1 1 30 3 47 47
(・厚生労働省の資料を参考に作成したもの)


● 新長寿県・長野とワーストワン・青森の違いは!

 厚生労働省は、今回の結果について長野県は「自治体レベルでの公衆衛生・メタボ対策などの健康管理に熱心に取り組んできた結果ではないか」とし、沖縄県では「若い世代になるにつれ死亡率が悪化傾向にある」としている。 これらの県の健康に関する生活習慣から推測することで、「健康で長生き」の秘訣が見えてくるかもしれない。

 死因別の死亡確率のトップは、男女ともに癌(ガン)で、男性29.83%、女性20.59%、長く日本人の三大死因とされてきたガン、心疾患、脳血管疾患を合わせると男女ともに5割を超えている。 
 これらは「生活習慣病」とも言われるように、食習慣(脂質・塩分の過剰摂取など)や運動不足、喫煙、飲酒、ストレスなどといった生活習慣が高血圧、糖尿病、がん、心疾患、脳血管疾患などの発症率を高めるともされていることから、これらの生活習慣を改善することにより、健康で長生きにつながると考えられる。

同時に発表された厚生労働省の 「平成22年国民健康・栄養調査結果」によると、47都道府県中、青森県の男性の食塩摂取量は2位、喫煙率1位、飲酒率1位、肥満者の割合は9位、野菜摂取量31位、1日の運動歩数量46位の結果に対し、長寿日本一の長野県・男性では食塩摂取量は6位と高いものの、喫煙率44位、飲酒率19位、肥満率は40位、野菜摂取量1位、運動歩数は19位となっている。

 青森県は生活習慣病の発症率が高く、経済的理由や病気を苦にした自殺率も高いと言われている。 人生これからという働き盛りの時期に、がんや脳や心臓などの疾患で亡くなる人も少なくない。 国立がん研究センターから公表された「2011年の都道府県別のがんによる75歳未満年齢調整死亡率」でも青森県の死亡率1位、長野県47位であった。

 長野県もかつては、がんや心疾患、脳卒中などで亡くなる方は多かったと言われていた。 青森県と同様、雪の多い地域は冬場に野菜が採れないから保存食である塩辛い漬物を食べることになる。 信州味噌の産地として全国的にも知られていることからも、味噌の消費量も多く、日常的に家庭料理から多くの塩分を摂取していたのでしょう。 また、雪の降る冬場は室内に閉じこもり、運動する機会も少なくなる。 そういう生活習慣だと血圧は高くなるし、体にいいことはない。

 危機感を持った長野県は、「生活習慣の改善策」として、「食生活の改善」(塩分を控え、野菜をよく食べる)と、「寝たきり防止」の運動を習慣にするように根気よく取り組んだ。
例えば、減塩のため味噌汁は、1日1杯、漬物類は小皿で、ラーメンなどのスープは全部飲まないで残すなど塩分摂取量を減らす。

 介護を受ける状態にならないように、身体を動かす力や、食物を食べ・飲み込む筋力を維持する運動講座などが行われている。
 その結果、20歳以上の男女の野菜摂取量は全国トップ。地域で住民の保健指導に当たるボランティアがほぼ全ての市町村に配置され、一人暮らしの高齢者宅を訪問したり、生活習慣病に関する住民向け研修会への参加を呼び掛けたりするなど努力を重ねてきた。

 長野には、「ぴんころ」と言う言葉があるそうな、「ぴんぴん」で元気に長生きをし、病気をせずに「ころり」と死ぬと言った意味のようですが、元気で人生を楽しみ、終わりは介護などで人の迷惑にならないように死ぬのが願望ということか。


● 沖縄にみる長寿国・日本の危機

 では、なぜ沖縄県は寿命ランキングを下げてきているのか。 10数年ほど前、「沖縄の健康的な食生活と、ストレスの少ないライフスタイルを見習えば、長生きできる」などと書かれた本が、ベストセラーとなったこともある。 その著者が、このままいけば近い将来、沖縄の長寿神話は完全に崩壊するのではないかと危惧していると言う。

 今回の厚生労働省の調査でも、沖縄の65歳以上の所謂「団塊の世代」以上においては、今も元気な長寿者が多いいのであるが、65歳以下では男女ともに年齢が下がるほどに、死亡率が高くなっている傾向にあることが顕著になっている。
 特に若い世代の心筋梗塞や脳梗塞などの循環器系疾患が増加していて、その原因が50年以上前に起きた食生活の大きな変化にあるとする研究者もいる。

 かって、米軍占領下にあった1960年頃の沖縄においては、米軍により肉の加工品・缶詰などが大量にもたらされ、それまで野菜や芋類、魚類が中心だった食生活から、肉類、乳製品などの脂肪分の多い食事へと大きく変化したと言われている。
 これは以前から言われていたことではあるが、全国に先駆けてすでに「食の欧米化」が始まり、県民の摂取カロリーに占める脂肪摂取量の割合が急激に上昇、1970年以降になると、国が定める適正値の上限を上回る高い水準のまま現在に至っているという。 そのころから始まった高脂肪の食生活パターンがすっかり定着してしまったという。 その結果、沖縄の成人男性の2人に1人が肥満(全国平均は3人に1人といわれている)という調査報告もあり、今や「肥満県」になってしまった。

 沖縄の男性においては、今回もさらに30位へと急速にランキングを下げていて、もはや長寿県とは言いがたい水準にある。 その原因として「高脂肪の食事」への変化に加え、古くからの「泡盛」に代表される高い飲酒率の習慣が要因ではないかと指摘する人もいる。

 そもそも、動脈硬化性の疾患、心筋梗塞、脳梗塞に関しては、女性ホルモンにより男性に比べ女性のほうが10年くらい遅く発症するといわれている。 さらに今回、沖縄の女性の死因の中で肝臓疾患による死因が全国1位だったことで肥満や飲酒により、このままでは沖縄の女性も男性の後を追うようにランキングを下げて行くのではないかと危惧されている。

 そして、沖縄から始まった「食の欧米化」が、いまや日本全国に浸透していることから、沖縄で顕著になってきた生活習慣病の若年化が、10年から20年後には全国的に広がっていく可能性があると言える。
 もちろん、この間に医療の進歩によりこれらの疾患を克服することができる可能性もあるかもしれないが、健康的で長生きができるかは疑問である。

 沖縄での兆候は日本全国に共通した問題でもあり、近い将来長寿国日本の寿命が頭打ちから短命社会へと進む可能性が高まってきた兆候ではないかと指摘する研究者もいる。

 尚、厚生労働省は2060年(平成72年)にかけて、日本の平均寿命は緩やかではあるが伸び続け、男性は84.19歳、女性は90.93歳になると予測している。


● 長寿は食習慣・生活習慣の改善から

 高カロリー・高脂肪食が健康に良くないとわかっていても、ついつい食べてしまうのはなぜか。

 欧米でも、以前から肥満が問題となり、「和食」が健康食として人気を集めて久しくなるが、なかなか国民の肥満対策が進んでいないのが現実である。 清涼飲料のビッグボトルをがぶ飲みしているところなど見てると、然もありなんと思うこともある。

 米国で発表された研究によると、普段の生活で高脂肪・高カロリーな食事をとり続けていると、脳内に大量のドーパミンが定常的に作られ、やがて少量のドーパミン(カロリーを制限した食事)では、脳での満足感を得られなくなり、ますます高カロリーの食事をとり続けてしまうというのである。
 これは、「麻薬中毒」や「アルコール依存症」の人の脳にも共通しているといわれ、食べ過ぎはよくないと分かっていても、その欲求を抑えることができなくなるのは、このためともいわれている。
ついつい、スナック菓子を食べてしまうのも、この脳のメカニズムの性かと納得できる。

 米国では、テレビ・CMや新聞・雑誌など脂肪分のとり過ぎや、清涼飲料などからの糖分摂取に、繰り返し注意を呼びかけ、欧州では脂肪分の多い肉やチーズなどの食品に税金をかけ、摂取を抑制する政策をとっている国もあるが、いずれも決定的な効果を得られていないのが現状のようだ。
幼い頃から身についた食習慣・生活習慣は、すぐには変えられない。 やはり家庭の味、お袋の味、郷土の味が一番美味しいと思うだろう。 そして日本では米離れ、魚離れ、野菜嫌いが進むなか、菓子パンやスナック菓子を朝食代わりに食べ、ファースト・フードを美味しいと感じる現在の子供たちが、やがて大人になり懐かしく、忘れられない味と思う食事風景はどんなものなんだろうか。

 欧米では、早くから健康食として「和食(日本の野菜・魚を中心とした伝統的食事)」が、注目されている。 日本人が長寿なのは、この食習慣にあるのではとの思いからであろうが、日本では逆に欧米への生活習慣のあこがれもあってか、太平洋戦争後の復興期を経て、豊かさの象徴として特に「食の欧米化」が急速にすすんだ。 その結果を象徴するのが長寿県と言われた沖縄の現状ではないだろうか。

 以前、日本人は遺伝的にも、欧米系の人に比べて「肥満」や「糖尿病」になり易い体質であるといった内容の記事を読んだことがある。 日本でも近年、変化してきた食習慣に危機感を感じ、学校現場では子供たちの給食を通して「食育」の重要性を唱え、自治体によっては健康医療対策、高齢者介護対策などを通して、食生活を含む生活習慣の改善に取り組んでいるところもある。

 これらの取り組みが成果となって現れるには、まだまだ時間を要すると言えるかもしれない。
だが、地道ではあるが早くから問題意識を持ち、地域ぐるみで改善に取り組んだ結果、徐々にではあるが結果として現れてきたのが今回発表された長野県のランキングではないだろうか。

 これらの改善努力が、個々の意識の変化を促し、各家庭での食習慣・生活習慣の改善へとつながって行くことが、急速な高齢化を迎え、「健康で長生き」を目指す長寿国・日本の今後の課題でもあるといえる。


● 長寿への道

 厚生労働省は、2000年(当時:厚生省)より「21世紀における国民健康づくり運動(通称:健康日本21)」という、国民の健康に関する基本的な指針を策定、2010年までを目安として、これまでの「がん」などの重要疾患の「早期発見」、「早期治療」を柱とする二次予防対策から、これらの病を引き起こすリスクのある「生活習慣病(以前は成人病などと呼ばれていた)」の発生を防ぐ一次予防に重点を置き、10年間で達成すべき具体的な数値目標を設定し、予防推進運動を行ってきた。

 2012年4月、先の基本方針が全面的に改正され、2013年度からの次の10年間の「健康日本21(第2次)」の指針が示された。 これまでの、がん・循環器系疾患・糖尿病などの「生活習慣病」に対応するための「食生活の改善」や「運動習慣」などの一次予防のさらなる定着率向上に加え、増加する高齢者介護の視点から「健康寿命:(日常生活で制限のない期間(:介護などを必要としない期間)の平均と定義する)」という指標を新たに設け、高齢になってもできるだけ元気で、支援や介護を必要としない期間を伸ばすような考え方を打ち出した。 また、重症化予防にも重点を置いた対策をとることで、介護が必要になった場合でも運動やリハビリによって、運動機能の維持により、「寝たきり」防止などの生活機能の維持・改善の対策を推進することが盛り込まれている。


・ 厚生労働省によると、2010年のデータでは、

     男性 : 健康寿命 ・・・ 70.42歳、 要介護期間 ・・・ 約 9.22年
     女性 : 健康寿命 ・・・ 73.62歳、 要介護期間 ・・・ 約12.77年 


 以下は、厚生労働省の「健康日本21(第2次)公表資料から抜粋した長寿(健康で長生き)へのヒントになるかもしれないデータです。


 栄養・食生活は、一生を通じての健康づくりの基本であり、生活習慣病予防の観点からも、幼少期からの健康的で主体的な食習慣の形成が重要となる。 また、高齢者については、生活習慣病予防、日常生活動作能力(ADL)の低下予防、生活の質(QOL)の向上など高齢者の心身の状態に応じた展開が求められ、そのための食物や情報へのアクセスが確保されるような環境づくりを進めることも重要である。

 身体活動・運動に関しては、身体活動量が多い者や、運動をよく行っている者は、総死亡、虚血性心疾患、高血圧、糖尿病、肥満、骨粗鬆症、結腸がんなどの罹患率や死亡率が低いこと、また、身体活動や運動が、メンタルヘルスや生活の質の改善に効果をもたらすことが認められている。  更に高齢者においても歩行など日常生活における身体活動が、寝たきりや死亡を減少させる効果のあることが示されている。
 生活習慣病の予防などの効果は、身体活動量(「身体活動の強さ」×「行った時間」の合計)の増加に従って上昇する。長期的には10分程度の歩行を1日に数回行なう程度でも健康上の効果が期待できる。 家事、庭仕事、通勤のための歩行などの日常生活活動、余暇に行なう趣味・レジャー活動や運動・スポーツなど、全ての身体活動が健康に欠かせないものと考えられるようになっている。
」                                           

1) 栄養・食生活に関する成人の個人目標(目標値)

  ・ 適正体重(BM I)を維持する。
   ( BM I=[身長(m)]2×22 で計算する ) (BM I=22を標準とする)
  ・ 1日あたりの脂肪エネルギー比率 ・・・・ 20~25%にする。
  ・ 1日あたりの平均塩分摂取量 ・・・・ 10g未満とする。
  ・ 1日あたりの野菜の平均摂取量 ・・・・ 350g以上とする。
  ・ 1日あたりのカルシウムに富む食品の平均摂取量
      牛乳/乳製品 ・・・ 130g、豆類 ・・・ 100g、緑黄色野菜 ・・・ 120g 以上とする。

  ・ 自分の適正体重を認識し、体重コントロールを実践する。
  ・ 朝食を食べる。
  ・ 1日最低1食は、きちんとした食事を、家族2人以上で楽しく、30分以上かけてとる。
  ・ 外食や食品を購入する時には栄養成分表示を参考にする。 
  ・ 自分の適正体重を維持することのできる食事量を理解しておく。

2) 身体活動・運動に関する成人の個人目標(目標値)

  ・ 1日あたりの目標歩数    男性 ・・・ 9,200歩 / 女性 ・・・ 8,300歩
  ・  〃 高齢者(70歳以上)  男性 ・・・ 6,700歩 / 女性 ・・・ 5,900歩


 ただし、これらの項目、数値は、本来は個々人の健康・栄養状態等によって異なるものであり、あくまでも1つの目安とするもので、参考程度にしておくようお願いいたします。


*)参考資料

・厚生労働省資料/平成22年都道府県別生命表の概要
・健康日本21資料/健康日本21(第2次)の推進に関する参考資料