2012年11月29日木曜日

冬が旬の魚・貝


● 鰤(ブリ)

 「師走の魚」と書いて『鰤』(ブリ)。「寒ブリ」とも呼ばれ、寒くなるにつれて脂が乗って美味しくなります。刺し身・照り焼きなどが代表的な食べ方ですが、大根と合わせての煮物は家庭の味として広く親しまれています。

 日本では昔、武士や学者などは成人して元服(げんぷく)すると、幼名とは違った名を名乗りましたが、魚も成長すると風味が変わるので、呼び名が変わる魚があります。これが『出世魚』で、子供の成長や知人の栄進を祝福する時、この出世魚を贈呈することがあります。

 その代表が「ブリ」で、地域によって呼び名が変わります。関東では大きくなるにつれて「ワカシ」→「イナダ」→「ワラサ」と名が変わり、「ブリ」になると体長が1メートルにも達します。東京周辺では、養殖物を無条件に関西の若魚の呼び名である「ハマチ」と呼ぶことも多くあります。

 ちなみに、関西では「モジャコ」→「ワカナ」→「ツバス」→「ハマチ」→「メジロ」→「ブリ」と呼ぶところが多いようです。



● 鰡(ボラ)

 鰡(ボラ)は、秋から冬にかけてが旬と言われ、外洋で獲れた鮮度の良いボラは、臭みもなく刺し身の美味しさは鯛(タイ)にも劣らないとも言われる。

 ボラの胃の幽門は、「ボラのへそ」と呼ばれ、こりこりとした食感の珍味。卵巣を塩漬けにした「からすみ」は、ウニ、コノワタと併せて「三大珍味」と呼ばれ、高級な酒肴として有名です。

 ただ、東京湾などの内湾で獲れたボラには、ドロ臭いものが多いことなどから敬遠する人も少なくない。

 ボラは古くから食用にされてきた魚で、ブリやクロダイ、スズキなどと同様、本来は縁起の良い出世魚です。 地方によって呼び名は違いますが、関東ではオボコ→イナッコ→スバシリ→イナ→ボラ→トドと名前が変化します。

 また、日本人と馴染みが深いボラから派生した言葉も少なくありません。 例えばボラの稚魚名の「オボコ」は、うぶな世間知らずという意味で使われ、幼い様子や可愛いことを表わす「おぼこい」の語源ともなっています。

 粋(いき)で、勇み肌の若い衆を「イナセ」と呼ぶのもボラの幼魚名の「イナ(鯔)」からきており、当時魚河岸(うおがし)の若い衆の間で流行した跳ね上げた髷(まげ)の形をイナの背びれに例えて「鯔背銀杏(いなせいちょう)」と呼んだことや、若い衆の髷の青々とした剃り跡をイナの青灰色でざらついた背中に見立てたことに由来しているとも言われている。

 ボラの成魚は「トド」と呼ばれますが、これ以上大きくならないことから、「結局」、「行き着くところ」という意味の「とどのつまり」という言葉が生まれた。 ちなみに、年若で未熟な人のことを意味する「青二才(あおにさい)」も、一説によるとボラなどの稚魚を「二才魚」または、単に「二才」と呼んでいたことに由来し、未熟を意味する「青」が合わさり「青二才」と呼ばれるようになったとされている。



● 鱈(タラ)

 「魚」に「雪」と書いて「鱈」(タラ)。雪が降り始める1~2月に旬を迎えて美味しくなる魚です。口が大きく、大食漢で「たら腹(ふく)食う」の語源になったとも言われています。
字の如く、雪の降る季節に産卵期を迎え、味が良くなります。すり身の原料にするスケソウダラなどもありますが、単に「タラ」と言う場合は「マダラ」(真鱈)を指すことが多いです。

 鍋物に欠かせない食材の「タラ」ですが、一般にタラと言えば「マダラ」のことを指し、「スケソウダラ」は水分が多く、鮮度が落ちやすいため、「かまぼこ」や「ちくわ」など加工品の原料になることが多く、雌の卵巣を塩蔵(えんぞう)した「たらこ」や唐辛子で漬けた「からし明太子」で馴染みがあります。

 タラは雄、雌とも味は変わりませんが、珍味の白子(精巣)がとれる雄は雌の倍近い価格で取引されています。切り身を店頭で選ぶ際は、透明感があってピンクがかったものが新鮮。逆に身が白く不透明なもの、皮が白っぽいものは鮮度が落ちているので避けるのがよいです。

 また、白子は身くずれしているものは鮮度が落ちており、透明感があって身がしっかりしているものを選ぶのがよいです。

ちなみに、「銀だら」と呼ばれるものは、「あいなめ」に近いものでたらの種類とは違います。

 タラは食欲が旺盛で、貝や小魚、イカなどを手当たり次第に食べます。実際に食べ過ぎが原因で胃潰瘍(かいよう)にかかる魚もいるといいます。この大食いの性質から「鱈腹(たらふく)」という当て字が生まれたそうです。

 身は脂が少なく柔らかな白身で、たらちりなど鍋物にして食べるのが一般的です。世界でもタラはポピュラーな魚で、揚げたタラにフライドポテトを添えた英国の「フィッシュ&チップス」は有名です。




● 金目鯛(キンメダイ)

今が旬の「金目鯛」。伊豆ではこの金目を使った料理をご当地料理として観光の目玉に据えており、刺身、握り、味噌漬け、しゃぶしゃぶ、茶漬け、鍋物等どれもおいしく、オーソドックスな金目の煮付けなどは特に美味。かの地を訪れた際にはこれが楽しみの一つとなっています。

 金目鯛は見た目も華やかで、マダイの代用として「祝い魚」としても饗されることがあり、大安吉日の日には値段があがることでも知られていますが、近年は築地でも天然のマダイやヒラメを上回る高値がつくことが珍しくないそうです。水揚げの減少やブランド化による需要の増加等で価格が高騰し、大衆魚だった金目鯛も今は高級魚となっています。

 ところで、扁平で大型で赤っぽい体色、白身などの特徴を持つ魚は「○○ダイ」と名がつくことが多く、その数はざっと200種類に及びます。

 その中でも本当にタイ科の魚というのは「真鯛」や「黒鯛」など10数種類に過ぎず、それ以外の金目鯛などは鯛と言う名称によるイメージアップを狙った、俗に言う「あやかり鯛」の一つです。




● 平目(ヒラメ)

 この寒い時期に最も美味しさが増す「ヒラメ」。「寒ビラメ」とも呼ばれ、厳寒期の冷たい海水にさらされることで身が引き締まり、脂の乗りが良いです。高たんぱく・低脂肪の食材であり、特に背びれと尻びれの付け根に当たる縁側(えんがわ)は寿司だねの中でも絶品であり、肌の若返りが期待できるコラーゲンが多く含まれています。

 天然物は裏側がピンクがかった白色であり、養殖物にはまだら模様があるため、簡単に見分けることが出来ます。買う時は切り身が多いかと思いますが、身が透き通っているもので、切り口から水気、血液が滲み出てないものを選ぶのが良いです。

 ちなみに、カレイに似ており、『左ヒラメの右カレイ』と申します通り、背鰭(せびれ)を上にして目が左側にあるのがヒラメ、右にあるのがカレイです。 また、カレイに比べて口が大きく、鋭い歯があることでも区別できます。




● 牡蠣(カキ)

 ところで、今が旬の牡蠣(カキ)は鍋物の定番の具材の一つですが、売られている牡蠣には「生食用」と「加熱用」の2種類のパッケージがあります。

 鮮度の違いと思っている人も多いようですが、実際には鮮度とは関係がなく、養殖している海域によって区別されています。

 生活排水や工業廃水が流れ込まず、かつ水質検査など各種検査を行い、特定の物質が規定量以下で安全性が高いと保健所が指定した海域で養殖したものが「生食用」となります。それ以外の海域で獲れたものが「加熱用」となります。

 牡蠣は毎日300リットルの海水を取り込み、ろ過して成分を吸収し成長します。それゆえ、沖合のキレイな海で育った生食用の牡蠣よりも、山や河川から流れ込む栄養分やプランクトンが豊富な河口や湾内で育った加熱用の牡蠣の方が旨み成分が多く味が濃いとも言われます。

 生食用の牡蠣は水揚げ後、2~3日かけて紫外線殺菌海水で丁寧に洗浄し、カキに含まれた菌を除去してから出荷されます。この処理があることによって身が痩せたり、旨み成分を減らしてしまう可能性があります。一方の加熱用の牡蠣は、加熱調理(中心温度が85度で1分以上の加熱)によって菌やウイルスを除去することを前提にしており、水揚げして殻を?いて、滅菌海水で洗った程度で出荷されます。従いまして、水揚げしたばかりの状態により近いのは加熱用の牡蠣ということになります。

 また、牡蠣などの二枚貝はかなりの確率でノロウイルスを保有しています。牡蠣による食あたりのほとんどはこのノロウイルスが原因です。でありますから、加熱殺菌を前提としている加熱用の牡蠣を決して生で食べてはいけません。
「生食用」と「加熱用」は、それぞれの用途で安全に美味しく食べるための区別ですので、調理に合わせて選びたいものです。